性器ヘルペスの感染経路は? 症状と治療方法、注意点を男女ともに紹介
性器ヘルペスとは、陰部や周辺に痛みを伴う水ぶくれが表れる病気です。男女ともに感染する可能性がありますが、初めて発症した際は女性の方が強い痛みに襲われる傾向にあります。また、出産時に発症していると母子感染のリスクもあるため注意が必要です。今回は性器ヘルペスの症状や特徴、感染経路をはじめ、治療方法や妊娠・出産時の注意点などを紹介します。
- 監修医師
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山田光泰先生産婦人科専門医。大学病院等で不妊治療を中心とした最先端の医療に従事しつつ、厚生労働医系技官として母子保健施策の推進にも携わってきた。現在は、女性のライフステージに応じたウェルネス向上をサポートすべく、テクノロジーを活用した課題解決にも取り組む。
【男女】性器ヘルペスチェックリスト
性器ヘルペスの症状は、男女で共通しているものが多いのが特徴です。次のチェックリストに当てはまるものはないか確認してみましょう。【女性】
✔ 陰部(外陰部)に水ぶくれができている
✔ 歩くこともつらいほどの痛みを感じる【男性】
✔ 陰部(亀頭・冠状溝・包皮)に水ぶくれができている【共通】
✔ 水ぶくれが破裂し、皮膚がただれて強い痛みを感じる
✔ 足の付け根が腫れて痛みを感じる
✔ 排尿痛がある
✔ 全身に倦怠感がある
✔ のどに痛みがある
✔ 発熱している
✔ 頭痛がある性器ヘルペスにかかった場合は、上記の症状が複数表れることもあります。特に、排尿時の痛みや陰部の水ぶくれがある場合は、何らかの性感染症にかかっている可能性があるため、早急に病院を受診しましょう。
そもそも性器ヘルペスとは?
ヘルペスには口唇ヘルペスと性器ヘルペスがあり、それぞれ発症場所が異なります。自分やパートナーがヘルペスになったのか不安な人も、すでになってしまった人も、ヘルペスと上手に付き合っていくために、どんなものか知っておきましょう。
「ヘルペス」の原因と特徴
性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスを病原とする性感染症です。
単純ヘルペスウイルスには1型と2型があります。従来は1型が口唇ヘルペス、2型が性器ヘルペスと言われていましたが、以前に比べてオーラルセックスが広まったことで、症状とウイルスの区分はなくなってきました。現在では唇にできたものを口唇ヘルペス、性器周辺にできたものを性器ヘルペスと呼びます。
単純ヘルペスウイルスは一度感染すると、治療をしても体内に潜伏し続けます。ヘルペスの症状が治まっても、疲れや免疫力の低下によって再発してしまうため、上手く付き合っていくことが大切です。
性器ヘルペスは感染しやすい性感染症
ウイルスの感染後、性器ヘルペスの症状が出るまでに3~7日間の潜伏期間があります。男性も女性も、再発時よりも初めて発症した時の症状の方が重い傾向にあります。
しかし、ウイルスに感染しても、必ずしも症状がすぐに表れるとは限りません。潜伏感染後、しばらく経ってから初めて発症する場合もあります。単純ヘルペスウイルスに感染しても発症せず、無症状でウイルスを排出している人の割合は70〜80%(※1)にも達するため、気づかないうちに性器ヘルペスを相手に移していることもあるのです。
2020年のデータ(※2)を見てみると、女性の性器ヘルペスの感染者数は、クラミジアに次いで2番目に多くなっています。男性はクラミジア、淋菌、梅毒、尖圭コンジローマに次いで5番目です。性器ヘルペスは、性行為時にできた腟内の細かな傷口から感染を引き起こす場合が多いため、男性よりも女性の感染リスクが高いとされます。
このように、性器ヘルペスは多くの人が感染していて、かつ無症状のこともあるため、「いつ・誰から移ったのか」を特定するのは困難です。
主な感染経路は性行為
性器ヘルペスの主な感染経路は性行為です。相手に症状が表れていない場合も、性器の粘膜や分泌液中にウイルスが存在する場合は感染のリスクがあります。セックス(性器→性器)だけでなく、オーラルセックス(口→性器)や、キス(口→口)でも感染します。
なお、性器ヘルペスの感染経路は性行為だけではありません。タオルや便座などにウイルスが付着していれば、そこから感染することもあります。基本的には病変部に触れることで感染するため、お風呂のお湯から感染することはほとんどないと考えられています。
性器ヘルペスの症状と治癒までの期間
性器ヘルペスは、初めての発症時と再発時で症状や治癒までの期間に違いがあります。ここではそれぞれの症状と、治癒までにかかる期間の目安を紹介します。
初めての発症時
性器ヘルペスは潜伏期間を経て、足の付け根にあるリンパ節の腫れ、発熱、全身の倦怠感などが表れることもあります。その後、女性の場合は外陰部や子宮頸部に複数の水ぶくれができます。数日経つと水ぶくれが破れてただれ、強い痛みを伴います。症状が最も重いのは、症状が表れてから1週間頃。排尿や歩行が困難になることもあり、ひどい場合は入院での治療が必要になります。
適切な治療を行った場合は1〜2週間ほどで治癒し、治療を行わない場合でも2〜4週間ほどで自然治癒する場合が多いです。
再発時は気づきかないこともある
先述したように、単純ヘルペスウイルスは体内に潜伏します。ストレスや疲れ、寝不足、皮膚への刺激など、性器ヘルペスが再発するきっかけは様々です。再発の頻度は人によって異なり、月に数回の人もいれば、年に数回の人、ほとんどしない人もいます。
性器ヘルペスの再発時に水ぶくれができる場所は、初めての発症時とほぼ同じです。再発時の症状は軽く、治癒までの期間も1週間ほどと短いですが、時には10日以上続く場合もあります。
再発する際は、腹痛や陰部のかゆみなど、前兆となる症状が表れることも。初めての発症時と違い、リンパ節の腫れや発熱は起こらないことが多いです。
性器ヘルペスの治療方法
性器ヘルペスが疑われる場合は、女性は婦人科、男性は泌尿器科を受診しましょう。できるだけ早く治すには、気づいた時点で受診し、適切な治療を受けることが大切です。ここでは性器ヘルペスの治療方法と注意点を紹介します。
飲み薬の服用が基本
性器ヘルペスの治療は飲み薬が基本です。アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルという抗ヘルペスウイルス薬が処方され、服用することで単純ヘルペスウイルスの増殖を防げます。
しかし、これらの薬はあくまで一時的にウイルス量を抑え込むものであって、ウイルス自体を完全に消失させることはできません。何度も繰り返し再発する人に向けたものとしては、前兆となる症状を感じた時に薬を飲んで予防する方法(PIT)や、薬を毎日飲むことで再発を予防する再発抑制療法があります。
性器ヘルペスの市販薬はない
性器ヘルペスが疑われる際、病院に行くのをためらう人もいるのではないでしょうか。しかし、性器ヘルペスの市販薬は存在しません。
インターネットで検索すると、「抗ヘルペスウイルス薬と同等成分配合」と謳っている薬が販売されていますが、そういったものは海外から輸入されたものです。輸入された医薬品は、日本の医薬品医療機器等法に基づいた品質、有効性及び安全性の確認がされていません(※3)。
大切な体を守るためにも、市販の痛み止めで痛みをごまかしたり、インターネット通販で薬を購入したりするのではなく、病院を受診して医師から適切な薬を処方してもらいましょう。
性器ヘルペスの予防・移さない方法
性器ヘルペスは感染しやすい病気だと知ると、「どうしたら予防できるのか」と悩んでしまいますよね。しかし、自分やパートナーが感染してしまったとしても、感染源を理解した上で生活すれば、過度な心配は必要ありません。ここでは、性器ヘルペスの感染予防と相手に移さない方法を、性交渉と日常生活に分けて紹介します。
コンドームを使用する
症状が出ていない時に性交渉をする場合も、必ずコンドームを使用します。挿入の直前に着けるのではなく、最初から使用することが大切です。
ただ、コンドームは妊娠と同様、性器ヘルペスの感染も100%防げるわけではありません。性行為の前はもちろん、行為後も陰部に異変が起きていないか確認する習慣をつけましょう。
症状がある時は性交渉をしない
水ぶくれや痛みなどの症状や、再発の前兆となる症状が表れている時は感染のリスクがあるため、オーラルセックスも含め、性交渉は避けましょう。
性器ヘルペスの治療は、自分だけでなくパートナーと一緒に行うことが大切です。性交渉は、薬を飲み切って症状が完全に治まってから再開します。
症状が出ている時は日常生活も注意する
性器ヘルペスの症状が出ている時は、性交渉だけでなくキスも控えます。病変部に触れた際は必ず石鹸で手を洗い、タオルやコップといった日常で使用する物を他人と共有するのは避けてください。
その他、他の人と共有する便座や浴室のイスの扱い方にも配慮が必要です。便座の使用後はエタノールで消毒し、浴室のイスは使用しないか、使用した場合はお湯で洗い流すようにしましょう。
なお、単純ヘルペスウイルスは洗濯によって除去できるため、洗濯を別にする必要はありません。どうしても気になる場合は、煮沸消毒またはアルコールで消毒してから他の物と一緒に洗濯します。
妊娠・出産にまつわる性器ヘルペスの注意点
妊婦が出産時に性器ヘルペスを発症していると、分娩時に母子感染が起こる恐れがあります。新生児にヘルペスが感染し、新生児ヘルペスを発症してしまうと、場合によっては神経の後遺症が残ったり、最悪命に関わったりすることもあります。発症時にすばやい対応ができるよう、性器ヘルペスに感染した経験がある人は、その旨を産科の医師にあらかじめ伝えておきましょう。そして男性は、妊娠中や出産を控えている女性に性器ヘルペスを移さないことが大切です。
性器ヘルペスが疑われる場合は病院に相談を
性器ヘルペスは潜伏感染後、急に症状が表れることがあるため、「いつ・誰から移されたのか」を特定しづらい病気です。しかし適切な治療を受け、性交渉や日常生活に気を付けていれば普段通りの生活を送れるため、過度に不安に思う必要はありません。性器ヘルペスが疑われる場合は自分や相手を責めるのではなく、まずはパートナーと話し合って病院を受診してくださいね。
参考文献
※1 国立感染症研究所「性器ヘルペスウイルス感染症とは」
※2 厚生労働省「性別にみた性感染症(STD) 定点あたり報告数の年次推移」
※3 厚生労働省「医薬品等を海外から購入しようとされる方へ」