不妊治療は何をするの? 種類と治療内容、進め方を紹介

不妊治療とは、性交渉を一定期間行ったものの妊娠しないカップルが、妊娠を目指すために行う治療のことです。病院で検査を受け、原因や希望に合わせた治療方法に取り組みます。今回は、不妊治療の治療内容を種類別に紹介。その他に、受診からの流れや保険適用など、不妊治療に関する気になる部分もチェックしておきましょう。

監修医師
山田光泰先生
山田光泰先生
産婦人科専門医。大学病院等で不妊治療を中心とした最先端の医療に従事しつつ、厚生労働医系技官として母子保健施策の推進にも携わってきた。現在は、女性のライフステージに応じたウェルネス向上をサポートすべく、テクノロジーを活用した課題解決にも取り組む。

そもそも不妊症とは? 定義と男女別の原因

ハートを胸に抱える女性
妊活を始めてしばらく経つのに妊娠しないと、不安に思ってしまいますよね。しかし、実は多くのカップルが同じ悩みを抱えているんです。不妊治療は、不妊症の可能性があると判断された上で、検査を受けてから始まります。まずは、不妊症の定義と考えられる主な原因を押さえておきましょう。

不妊症とは妊活を続けても妊娠しないこと

妊活とは妊娠を望むカップルが行う、性行為を含めた行動のこと。

日本産科婦人科学会は「不妊症とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性行為をしているにもかかわらず、一定期間(1年以上)妊娠しないこと(※1)」と定義しています。つまり、妊活を始めて1年ほど経過しても妊娠の兆候がない場合は、不妊症の疑いがあります。

なお、妊活をしているカップルのうち、3組に1組が不妊を心配し、5.5組に1組が不妊の検査や治療を受けている(※2)など、不妊に悩んでいる人は少なくありません。

不妊症の原因は女性と男性の両方にある

不妊症の原因は女性・男性どちらか、もしくは男女ともに起因することがあります。
不妊症の原因
男女別の主な原因は次の通りです。

女性 ・排卵因子:排卵障害など
・卵管因子:卵管の詰まり
・子宮因子:子宮筋腫やポリープなど
・頸管因子:子宮頸管粘液(おりもの)の量や状態の異常
・免疫因子:精子を攻撃する抗体の生成
男性 ・造精機能障害:精子を作る機能の低下
・性機能障害:性行為が困難な状態
・精路通過障害:性行為で射精できない状態

不妊症の原因について、詳しくは以下の記事で紹介しています。

不妊治療の種類とは? 気になる治療内容

フラスコとハート

不妊治療の種類は「一般不妊治療」と「生殖補助医療(特定不妊治療)」の2つです。

① 一般不妊治療:タイミング法、人工授精
② 生殖補助医療:体外受精、顕微授精、男性不妊の手術

これらのうち、不妊症の原因や希望などによって最適な方法が選ばれます。今回はタイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精について紹介します。

タイミング法

タイミング法は、男女ともに不妊症でないことが前提の治療方法です。医師の指導に従い、排卵日に性行為をすることで妊娠を目指します。排卵日は卵巣内にある卵胞(卵子が入っている袋)の大きさなどから予測されるので、経腟超音波検査やホルモン検査などを行うための通院が必要です。

なお、不妊治療を受けるカップルの多くがタイミング法で妊娠に至っています。妊娠確率は、排卵日当日よりも前日、前々日に性交渉を行うほうが高いとされています。

人工授精

人工授精は、タイミング法の次に試される治療方法です。医療機関で処理した元気な精液を排卵日に合わせて女性の子宮に注入し、妊娠を目指します。“人工”とあるものの、受精と着床は自然妊娠と何も変わりません。精子と卵子が出会うよう、医療の力をほんの少し借りるイメージです。

<人工受精の対象となる例>
・精子の数が少ない
・精子の運動率が低い
・勃起・射精がうまくいかない

体外受精

体外受精は、精子と卵子を体の外側で出会わせる治療方法です。

<体外受精の流れ>
1. 女性が排卵誘発剤を使って複数の卵子を育てる
2. 成熟したら体内から取り出し、卵子と精子を一つの容器に入れる
3. 数日間培養した受精卵を子宮に戻し、妊娠を目指す(培養した受精卵は一旦凍結保存する場合が多いです)

<体外受精の対象となる例>
・両方の卵管が詰まっている
・卵管性不妊
・男性不妊(元気な精子の数が少ない)
・抗精子抗体(精子を攻撃してしまう抗体)が陽性

体外受精は排卵誘発剤の頻回投与(頻度高く投与すること)、採卵時の穿刺(針を刺すこと)による痛みなど、女性の体へ負担がかかります。その他にも通院回数が多く時間的な負担が増える、金銭的・精神的負担も大きいなど、ふたりの協力が欠かせません。

顕微授精

顕微授精は一つの精子を選び、顕微鏡観察下で細い針を使って卵子に直接注入する治療方法です。受精を確認した後の流れは体外受精と同じです。

<体外受精・顕微授精の流れのイメージ>
1. 卵巣に針を刺し、卵を採取する
2. 体外で精子と受精させる
3. 受精を確認し、数日間培養する
4. ある程度成長したら、一旦凍結する(凍結融解胚移植の場合)
5. 適切なタイミングで子宮内に受精卵を戻す

<顕微授精の対象となる例>
・通常の体外受精で受精しなかった場合
・男性不妊(精子が極端に少ない)

不妊治療の割合と妊娠率について

年代別各割合
2019年には全国で45万8,101周期の体外受精・顕微授精等が実施され、6万598人の赤ちゃんが誕生(※3)しています。体外受精・顕微授精による出生児数の割合は、全体に対して2009年は2.49%でしたが、2019年には7%まで増えています。

体外受精と顕微授精(生殖補助医療)における、妊娠率・生産率・流産率は次の通りです。

この数値からは、妊娠率・出産率は年齢を重ねるごとに低下する一方で、流産率は上昇することが分かります。

不妊治療はさまざまな方法があり、進め方はカップルによって異なります。ふたりが納得のいく方法を選ぶことが大切ですが、妊娠・出産には年齢が大きく関わることを理解しておきましょう。

不妊治療の進め方とは? 受診から治療開始まで

医師から説明を受けるカップル
不妊治療は、検査をして不妊症の原因を探ることから始めます。ここでは不妊治療の進め方を見ていきましょう。

1. 病院を受診する

子どもがほしいと思った時、妊活を続けても妊娠に至らない時など、妊娠を目指すタイミングで病院を受診します。この時、不妊治療に対応している病院・クリニックを選びましょう。待ち時間短縮のため、予約するのがおすすめです。

2. 問診・検査を受ける

初診では問診や内診、その他の検査を受けます。

<問診>
妊娠・出産・流産の経験、妊活の期間、生理の状態などを聞かれます。医師からは検査や治療に関する説明があるので、不安なことがある場合は遠慮せずに相談しましょう。

<内診>
子宮や卵巣に異常がないか調べます。経腟超音波検査を行うことが多いです。

<検査>
女性が受ける主な検査
・経腟超音波検査:腟内に器具を入れ、エコーによって映し出される画像を観察する
・血液検査:感染症の有無や、排卵や妊娠に関わるホルモンの分泌などを調べる
・子宮卵管造影検査:子宮の形状や卵管が詰まっていないか調べる

男性が受ける主な検査
・精液検査:精液量、精子濃度、運動率、運動の質などを確認する
※検査結果によっては他の検査を受けることもあります。

妊活はどちらか一方ではなく、ふたりで行うもの。検査も必ず一緒に受けましょう。

3. 治療を始める

検査によって不妊の原因が分かった場合は、それに適した治療を開始します。原因が分からない場合は、タイミング法→排卵誘発法→人工授精→体外受精と、治療法をステップアップさせていくのが一般的です。

なお、年齢やホルモン値の結果によっては、いきなり人工授精や体外受精からスタートすることもあります。

2022年4月からは不妊治療が保険適用に

ハートの贈り物
これまで、多くのカップルが不妊治療にかかる費用に悩まされてきました。検査と原因疾患への治療は保険適用でしたが、一般不妊治療における人工授精や、生殖補助医療は適用外(タイミング法は以前より適用)だったのです。

政府は、不妊治療を受けるカップルの経済的な負担を軽減するため、2022年4月から不妊治療における基本治療のすべてを保険適用にしました。保険診療の治療費は、窓口で3割負担です。治療費が高額な場合は、月額上限(高額療養費制度)も利用できるので、不妊治療を受ける際の負担は大幅に軽減されるでしょう。

不妊治療とはふたりで一緒に行うもの

医師から赤ん坊の説明を受けるカップル
不妊治療の方法は複数あり、原因やカップルの希望などに合わせて最適なものが選ばれます。妊活を始めてもなかなか妊娠できない時は、一度医師に相談してみてはいかがでしょうか。検査・治療を受けることで、妊娠への道が見えてくるかもしれません。

妊活と同じく、不妊治療もふたりで一緒に行うもの。まずは、お互いの意思や希望などを話し合ってみましょう。

参考文献
※1 公益社団法人日本産科婦人科学会,2018,「不妊症」
※2 国立社会保障・人口問題研究所, 「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」
※3 厚生労働省,2022,「不妊治療について」

あわせて読みたいおすすめ記事